ヴァカンスあれこれ

 

 スウェーデンでは7月は本格的な休暇シーズンである。工場など4週間閉鎖してしまうところも少なくない。閉鎖が不可能な銀行、病院、店舗など、職場によっては毎年のごとく員数あわせに大わらわとなる。特に休暇期に人手不足が深刻になるのは医療機関であろうか。休暇シーズンでも病気や事故は待ったなしだからである。それで職場によっては、給料や有給休暇日数を割り増すなどの特典を用意し、常勤スタッフが休暇をずらしてくれるよう工夫をこらしたりしている。
  
それでも絶対数は不足するので、毎年、近隣国から臨時要員を募集している。スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドなど北欧諸国内では協定により、労働力はけっこう昔から自由に移動しているが、最近ではバルト海の対岸にあるポーランドなどからも、夏期には看護要員、医師などの病院用スタッフを雇い入れている。彼等は就労前に、医療関連スウェーデン語の特訓を受けてくる。
  
また、休暇の時期は失業者や学生などにとっても就職のチャンスとなる。失業者にとっては期限付きの臨時職であっても、いったん組織の中にはいってしまえば正規雇用のチャンスもあるし、職場経験そのものも職歴に加算されメリットとなる。学生といえば、留学中の外国人もスウェーデン語が一応こなせると、夏のあいだ5ヵ月間就労できる。とにかく、店舗、ホームヘルプサービスなどの福祉関連、交通・医療機関などなど、あらゆる職場に普通以上に外国人がみられるのがヴァカンスシーズンである。まさに労働市場のグローバリゼーションといえよう。

 

    市民が満足だと国家もうれしい

 

ヨーロッパにおける有給休暇の歴史は古く、イギリスではすでに1901年に女性と18歳以下の若年労働者を対象とする有給休暇制度が法制化されている。スウェーデンでは、1920年代より産業別団体交渉を経ることにより、暫時普及がすすんだ。当時は1ヵ月の労働に1日の有休が標準であった。最終的に全勤労者が法の対象となったのは戦後1951年であり、当初の有給休暇期問は年間3週間であった。現在は勤労者全員が最低5週間保障されている。
  
スウェーデンに限らず、EU圏内での有給休暇は法で規定されており、比較的長期間である。スウェーデン同様、最低5週間あるのは、デンマーク、フィンランド、オーストリア、フランス、ルクセンボリイ、イタリア (産業によって異なる) となっており、英国、アイルランド、ドイツ、オランダ、ベルギー、スペインなどは各々4週間である。ギリシャとポルトガルはその中間となっている。

 当地では一定期間完全に職場を離れ、プライヴェートな生活に専念することは 「悪」 でも 「なまけ」 でもなく、むしろ 「善」 、あるいは 「必然」 であるとみなされている。
  
その理由として一般に次の二つが挙げられる。まずは生活環境を変えることにより、心身のリフレッシュをはかることである。休暇により蓄えられたエネルギーを新しく仕事に投入出来るのは、生産性と創造力の向上にとって効率的であると考えられている。次には国家的な経済効果である。というのも市民が休暇を楽しく過ごし心身を鍛えることにより、生活の満足度があがり健康が維持できるからだ。それはとりもなおさず病人の減少となり、即国家の経費節減となる。福祉制度は国家単位なので、一人病人がでると、医療費の他に傷病手当の支給が国家負担となる上、生産力が落ち税収入も減少する。要するに市民の機嫌がよいと、国家もうれしいのである。
  
ついでに三つ目の効果として付け加えたいのは、プライヴェート面だ。ヴァカンスは家族がゆっくりと一緒に日々を過ごし、絆を強める貴重な機会である。親、きょうだいその他親戚や友人との付き合いに、ゆっくりした時間がとれるのもこの時期である。
  
人々は休暇中、よく旅行もする。ベングト・サルベリイ観光学教授によるとその国の地理的条件が大きく影響するようで、スウェーデン始め北欧諸国や、ドイツあたりの北ヨーロッパに住む人々は、太陽を求めて地中海沿岸に好んででかける。経験してみないとわかりにくいかも知れないが、これらの国では、年間を通しての日照時間が少ないので、太陽に対するあこがれは非常なものである。あるスウェーデン人の女性は 「わたしは神を信じないけど、太陽は信じる」 といった。まさに 「太陽教」 である。暖かい太陽がさんさんと輝く海浜で肌をこんがりと焼くのが、多くのスウェーデン人にとって理想的な休暇の過ごしかただ。それは即健康維持にも連結していて、本人も国家も幸せとまったく実利的である。

 

  ☞ 経営者の休暇

20027月の日刊紙に経営者の休暇についての記事がみられた。企業によって様々であるようだが、6週間と最も長くとるのはトラック製造のスカニア社社長ウストング氏で、次はフォレーニング銀行のヨハンソン=ヘードベリイ氏の5週問とある。いったいに従業員にゆったり休暇を奨励する企業の代表は、卒先して好例を示す傾向にあるようだ。それにしても経営が順調であればこその話であろう。苫戦が続くテレコムのエリクソン社の社長は今年の夏期休暇はまず無理とあった。

 (不況の最中にある2009年の現時点では、経営者だけではなく、大量に発生の失業者も休暇なしだ)

(連合「労働調査」20028月号掲載に加筆・訂正)

 

 

 前に戻る  HOME