王制と民主主義

 

スウェーデン国王、カール16世は20041月、ボルネオ北西部にある小国、ブルネイ王国を公式訪問した。国王はスウェーデンメディア対象の現地記者会見の席で、「ブルネイ国王の誕生日には国民4万人を宮廷に招き、国王自ら2日間かけてその半分の人たちと握手する」 。

 また、「王は年に1度、2週間かけて国中を視察する。その時はどんな小さな村へも出かけていき、村民と握手する。このように全国民は直接国王と接触する機会がある。ブルネイは他国と比較しても、ずっと開かれた国である」 などと言ってしまったので、スウェーデンでは大変な騒ぎになってしまった。
  
理由は二つある。ひとつはスウェーデン国家の公式見解によれば、ブルネイは専制国家であり、二つ目は、スウェーデン国王は、公式の場での政治発言の権利がないからである。
  
ブルネイ・ダルサラーム国の面積は三重県に相当、34万人強の住民の約70パーセントがマレー系で、イスラム教を国教とし、石油を産出する豊かな国である。英国の保護領であったが、1984年に独立した。

 以来、ハサナル・ボルキア国王を元首とするが、国王はさらに、首相、国防相ならびに蔵相を兼任している (外相は実弟) 。立法議会制をとっているが、議会活動は独立を機会に停止されたままだ。それに、1960年代からの非常事態宣言が、いまだ解かれていない。スウェーデン外務省の資料には、国王は専制的な権力を所持しており、住民の権利は大幅に制約されているとある。

  ☞ スウェーデンの王制は廃止か

他方、スウェーデン国であるが、この国も制度的にはブルネイ同様、世襲の国王を象徴的元首とする立憲君主国である。しかし、国王の国家実務に関する権限は、30年前、現国王カール16世の即位直後に、法制改革により全面的に消滅している。改革以降は、国家の最高象徴として儀式などへの出席が国王ならびにその家族の主任務となった。
  
制度改革のあった1970年代はヨーロッパでは革新気運が強く、スウェーデンでも王制を廃止し、共和制を望む声がたかまっていた。当時、学者風で国民から慕われていた高齢の前王グスタフ6世は、スウェーデン最後の国王だとよく言われたものだ (跡継ぎであった皇太子が飛行機事故で亡くなっている。当時は男性のみが王位を継承)

 しかし王制は継続となり、先王の孫にあたる、現国王のカール・グスタフ皇太子が1973年に即位したが、当時まだ若く、勉強机よりスポーツカーを好んだ。多くの人が彼に国務が務まるのかと危惧したが、現在は家族共々、王室の任務を 「立派にこなしている」 と国民から支持を得ている。
   
立憲民主主義国家ではあるが、象徴として王制を残したのは、スウェーデン得意のバランス感覚による。この国には一者選択・他者破棄ではなく、両者をたてる 「中道」 を選ぶ習性がある。
  
しかし、今回のような出来事が起きると、ずっと内部でくすぶり続けてきた共和制案が表面に浮かびあがってくる。ただちに、「これで王制は終焉。法の改革を」 などと、多くの新聞が書きたてた。国王から要請があったとはいえ、専制国家と位置付けている国への公式訪問を認めた外務省もどうかと思うが、人々が反応したのは絶対にタブーであるはずの国王の公人としての政治発言であった。
  
現行の制度下では王室の最大注意事項は、公式な場では私人面をださないことかもしれない。国王が、友人としてブルネイのスルタンを褒めたのも、個人的な感想を率直に表現したにすぎないのであろう。しかしそれが即、スウェーデンの国威にかかわり、現行の王制度そのものの見直しが必要という論議に直結してくる。王制廃止案は水面下にはいつも存在していて、機会があれば浮上してくるようだ。

 ☞ 国王もふつうの人?

反面、王室のメンバーであっても生活人としての自由は、平等を原則とする民主主義体制下では、かなり認められている。他のヨーロッパ諸国の事情にはうといが、大体に北欧の王家は国務でない時は、「ふつう」 の人のような暮らしができるようだ。たとえば、国王といえども、買い物客で混雑する店で、クリスマスプレゼントを買ったりしている。独身ならヴァカンスで、好きな異性と数週間を一緒に過ごすことに反対をとなえる者はいない。週刊誌などに、その他有名人同様、写真入りで休暇の様子が記事となる。

 隣国ノルウェーは、隣接王国デンマークやスウェーデンがずっと統治を続け、独自の王室を得てから100年という国であるが、そこでの王室と庶民の距離は近い。現王妃は国王が皇太子時代の仕立屋のお嬢さんであったと聞くし、最近、嫡子を得たホーコン皇太子も結婚の相手に選んだメッテ=マーリットは、ふつうの市民、しかも前科の有無が問われた男性との間に結婚を経ず一児をもうけている女性である (これには流石にノルウェー人たちは驚いたが)
  
嫡子 (女の子) の出産時、興奮で頬をそめた皇太子は、父親としてへその緒を切ったと記者会見で語った。また、次の日、父親自身の撮ったプライベートな写真が新聞に掲載されるというサービス振りである (ノルウェーの皇太子一家は王室のホームページでみられる。右端の女の子は王位を継ぐ。左端はその弟。真ん中の男の子は、皇太子妃の「連れ子」。http://www.kongehuset.no/c27218/seksjonstekst/vis.html?tid=27398)
  
考えてみれば、街で買い物をしたり、異性と休暇を過ごすことや、子連れで再婚、夫婦で一緒に出産などは、北欧の人たちが日常的に行っていることである。民主主義社会において王制が生き残るには、生活人としては基本的に庶民様であることが大切なのかもしれない。

(連合「労働調査」20043月号掲載を訂正・加筆)

 

 

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